広告依存から脱却するSEO立ち上げ戦略｜人材不足でも90日で回せる体制づくり

なぜ「広告依存から脱却」が難しいのか

多くのSaaS企業が新規顧客獲得を広告に依存し、その即効性に魅力を感じています。

しかし、リスティング広告の費用対効果は年々悪化し、CAC（顧客獲得コスト）の上昇が持続的な成長を圧迫しています。

そのため、SEO施策への転換を図りたいと考える企業は多いものの、「社内に知見を持つ人材がいない」という壁に阻まれています。経験者不在のまま施策を始めても成果が出ず、中途半端に終わってしまうパターンが散見されるのが現状です。

SEO立ち上げに必要なスキルセットと役割

SEO運用を成功させるためには、複数の専門領域にわたるスキルが求められます。戦略立案から実行、分析まで一貫したプロセスを回すには、各工程に特化した役割分担が欠かせません。

特にSaaS企業では、一人ですべてを担当するのは現実的ではなく、効率的な分業体制を構築することが重要になります。

戦略設計

検索意図の解釈とキーワード戦略の立案を担います。

競合状況や市場の動向を調査し、自社サービスに適した検索クエリを抽出・優先順位付けすることで、強固なコンテンツ戦略の基盤を構築できます。ユーザーの検索行動を深掘りし、購買プロセスと一致するキーワードマップを描き出すことが欠かせません。

コンテンツ設計

記事構成の策定とE-E-A-Tを意識したテーマの選定を行います。

検索ユーザーが抱える課題を解消できる構成を整え、専門性・権威性・信頼性を兼ね備えたコンテンツを企画することが役割です。SaaSの複雑なサービスをシンプルに伝える設計力と、業界理解に基づいたテーマ選びがカギとなります。

ライティング

一次情報を活用し、読みやすさに配慮した記事制作を担当します。

自社で蓄積した知見や顧客事例を取り入れることで、独自性を高めた文章を生み出せます。複雑な機能をかみ砕いて説明し、読者の理解を助ける表現力が成果を大きく左右します。

レビュー・編集

品質基準を軸にチェックとリライトを実施します。

SEO視点で記事を評価し、検索エンジンと読者双方にとって価値ある状態に整えることが求められます。一定の品質を保つための編集スキルに加え、客観的な改善提案を行う能力が重要です。

分析・改善

SERP変動や流入数のトラッキングを通じた継続的な最適化を行います。

データに基づいた施策の効果測定と、次の打ち手の立案を担当します。数値の変動要因を正確に分析し、PDCAサイクルを効率的に回すための分析力が求められます。

人材不足で起こる失敗パターン

リソースが限られた状況でSEOに取り組む際、いくつかの典型的な問題が発生しがちです。

これらの失敗パターンを事前に把握しておくことで、同じ轍を踏まずに済みます。組織的な課題として捉え、システマチックな解決策を講じることが重要になってきます。

外注に丸投げし、品質が安定しない

外注先への指示が曖昧になり、期待する品質レベルのコンテンツが納品されないケースが頻発します。

発注側の要件定義が不十分だと、外注先も適切な成果物を作成できません。結果として修正作業が増え、かえってコストと時間がかかる状況に陥ってしまいます。

内製で始めるがリソース不足で更新が止まる

社内リソースだけで運用を開始したものの、他業務との兼ね合いで継続的な更新が困難になるパターンです。

最初は意欲的に取り組んでも、日常業務に追われて更新頻度が落ち、最終的にはコンテンツ制作が止まってしまう事例が多く見られます。

RACIが定義されておらず、責任の所在が不明確

役割分担が曖昧なまま施策を開始すると、誰が何に責任を持つのかが不透明になります。

タスクの漏れや重複が発生し、チーム全体の生産性が低下する原因となります。特に複数部門が関わる場合、この問題は顕著に現れる傾向があります。

成果を定量的に示せず、経営層を納得させられない

SEOの効果測定指標が設定されていないため、投資対効果を経営陣に説明できないケースです。

数値による成果の可視化ができないと、継続的な予算確保が難しくなり、中長期的な取り組みとして定着させることができません。

解決策①：RACIを用いた体制設計

効果的なSEO運用を実現するには、明確な役割分担とオーナーシップの確立が不可欠です。

RACIフレームワークを活用することで、誰が何に責任を持ち、どのような関与をするのかを明文化できます。この仕組みにより、タスクの抜け漏れや重複を防ぎ、効率的なワークフローを構築することが可能になります。

RACIは、Responsible（実行）、Accountable（責任）、Consulted（相談）、Informed（報告）の頭文字を取った役割分担フレームです。SEO立ち上げにおけるRACI例は以下の通りです。

Responsible

外注ライターと業務委託スタッフが実際の制作作業を担当します。コンテンツの執筆、画像選定、基本的なSEO要素の実装など、日々の実務作業を遂行する役割を果たします。明確な指示書に基づいて、一定品質の成果物を継続的に納品することが期待されています。

Accountable

マーケティング責任者が全体の成果に対する最終責任を負います。戦略策定から結果評価まで、SEO施策全体のオーナーシップを持ち、経営層への報告や予算管理も担当します。プロジェクト全体の方向性を決定し、最終的な成功に対して責任を持つポジションです。

Consulted

SEO専門家や監修者が専門知識の提供とアドバイスを行います。技術的な課題の解決策を提案し、業界のベストプラクティスを共有します。内部では得られない専門的な見解を提供し、施策の質を向上させる重要な役割を担っています。

Informed

経営層と営業部門が進捗状況と成果の報告を受けます。定期的なレポートを通じてSEOの効果を把握し、必要に応じて戦略調整に関する意思決定を行います。直接的な作業には関与しませんが、結果を基にした経営判断に活用する立場にあります。

解決策②：外注・業務委託の賢い活用

人員不足を補う手段として外注活用は効果的ですが、適切なマネジメント手法を用いることが成功の鍵となります。単純な業務の丸投げではなく、詳細な仕様書の整備と品質管理の仕組み作りが必要です。外注先との協働により、社内リソースを最大限活用しながら成果を上げる体制を構築していきましょう。

リソース不足を補う手段として外注は有効です。しかし「丸投げ」ではなく、発注仕様書を整備することが不可欠です。仕様書には以下を含めましょう。

さらにレビュー基準をスコア化すると品質が安定します。外注先を評価する際には、納期遵守率や修正回数といったKPIも取り入れるとよいでしょう。

解決策③：90日で立ち上げるロードマップ

限られた期間で確実に成果を出すためには、段階的かつ戦略的なアプローチが必要です。90日間を3つのフェーズに分けて、それぞれで達成すべき目標を明確に設定します。この計画的な進行により、経営層に対してSEOの効果と将来性を具体的に示すことができるようになります。

短期間で成果を見せるには、段階的なロードマップが必要です。

0〜30日目

RACI設計、キーワード戦略策定、発注仕様書とレビュー表作成を完了させます。

基盤となる体制づくりに集中し、今後の運用に必要なルールや基準を整備します。この段階で作成したドキュメントが、後続フェーズでの品質管理とスピード向上の土台となります。チーム内での役割分担を明確化し、外注先との連携方法も確立しておくことが重要です。

31〜60日目

パイロット記事を公開し、検索結果やCTRを検証、外注とのコミュニケーション改善を実施します。

実際の運用を通じて課題を洗い出し、プロセスの最適化を図ります。初期の記事から得られるデータを分析し、仮説の妥当性を検証することで、次フェーズでの本格展開に向けた準備を整えます。

61〜90日目

記事数を拡大し、トピッククラスターを構築、内部リンクを設計、ダッシュボードで成果を可視化します。

本格的なコンテンツ展開を開始し、SEO効果を最大化する施策を実装します。同時に成果測定の仕組みを整え、継続的な改善サイクルを回せる状態を作り上げます。この段階で経営層への説明資料も準備し、次期への投資判断材料を提供します。

成功の鍵：E-E-A-Tとダッシュボードで再現性を担保

持続可能なSEO成果を実現するには、属人的な取り組みから脱却し、組織として再現性のある運用体制を築くことが欠かせません。専門性の担保と数値による効果測定を軸とした仕組み作りにより、人材の入れ替わりがあっても一定の品質とパフォーマンスを維持できる基盤を構築します。

SEOの成果を継続的に出すには、再現性を持った運用が不可欠です。

E-E-A-Tの仕組み化

著者や監修者のプロフィールを明示し、専門性を担保する仕組みを構築します。

コンテンツの信頼性を高めるため、業界経験者による監修体制を整備し、引用や参考資料の管理ルールを明文化します。これにより、誰が制作しても一定レベルの専門性を保ったコンテンツが作成できる環境を整えることができます。

ダッシュボードの実装

MQLやSQL、記事別流入、コンテンツのCVRを可視化する仕組みを導入します。

リアルタイムでのパフォーマンス監視により、問題の早期発見と迅速な改善対応が可能になります。データドリブンな意思決定を支援し、施策の効果を定量的に評価できる基盤を提供します。

経営への説明

短期の流入改善、中期のコンバージョン増加、長期のCAC改善をロードマップとして共有します。

各フェーズでの目標値と実績値を比較し、ROIの算出根拠を明確に示します。継続投資の妥当性を数値で裏付けることで、経営陣からの理解と支援を獲得することができます。

まとめ

人材不足でもSEO立ち上げは可能

人材が不足していても、RACIを用いた体制設計、外注活用の工夫、90日ロードマップの実践によりSEOは十分立ち上げ可能です。

広告依存から抜け出す第一歩は「仕組み化」と「再現性の確保」です。属人的な努力ではなく、組織として回せる体制を整えることが成否を分けます。